電源ケーブル不要の人工心臓、川崎市採択で開発加速
ベストカレンダー編集部
2025年11月22日 14:54
ワイヤレス人工心臓採択
開催日:11月22日
電源ケーブルのない超小型人工心臓を目指す技術と背景
Helioverse Innovations Inc.(本社: 米国オハイオ州、代表: 黒田太陽)は、電源ケーブルを体外に貫通させる必要のない完全植込み型ワイヤレス電源システムを核とする、超小型カテーテル式人工心臓の研究開発を進めています。今回、同社の日本法人であるHelioverse Innovations Japan株式会社が、川崎市主催・upto4株式会社運営協力の「Kawasaki Deep Tech Accelerator 研究開発型ベンチャー企業成長支援事業(2025年度)」の支援先に採択されました。
従来の補助人工心臓(LVAD)治療は、末期心不全患者の救命手段として確立されつつあり、報告では5年生存率が70%を超える例もある一方で、皮膚を貫通する太い電源ケーブル(ドライブライン)に起因するデバイス感染が深刻な課題として残っています。既存機器では患者の約22%がデバイス感染を発症し、重篤化すると生命に関わるリスクが指摘されています(出典: Annals of Thoracic Surgery, 2024)。本プロジェクトはこうした課題に対し、ワイヤレスで大電流を安全に供給できるシステムを体内に完全に埋め込み、ドライブラインレス(ドライブラインがない)を実現することを目標としています。
医療ニーズと技術的チャレンジ
人工心臓のワイヤレス給電は、単に電力を送るだけでなく、体内で発生する熱、電磁干渉、臓器や組織への安全性、長期耐久性を含めた総合的な設計と検証が必要です。HelioverseはCleveland Clinicの長年にわたる人工心臓研究の知見と、日本の高度精密産業のエンジニアリングを融合させることで、これらの課題に対処しようとしています。
チームは高性能モーター、ベアリング、磁気浮上技術、精密加工、電磁干渉対策といった分野での専門性を結集し、体内における大電流の安全供給を実現する設計検討、試作、前臨床試験準備を進めています。目標として2030年の臨床試験開始を掲げ、まずは第1世代プロトタイプを2026年3月までに完成させる計画です。
Kawasaki Deep Tech Accelerator 採択の意義と支援内容
川崎市が主催する本プログラムは、大学や企業の研究成果(知財等)を基に研究開発型ベンチャーを創出・育成するための事業化加速支援プログラムです。upto4株式会社の運営協力により、6ヶ月間の伴走支援、VC等とのネットワーキング、事業会社とのマッチングなどを無料で提供します。
Helioverseの採択は、単なる資金支援に留まらず、川崎市が有する研究開発拠点・産業集積との接点構築、製造業企業との連携強化を通じて試作・量産に向けた具体的な技術検証を加速することを目指すものです。川崎市はかながわサイエンスパーク、新川崎・創造のもり、キングスカイフロント等を擁し、医療機器やロボット、デバイス分野の研究開発拠点が集積しています。
具体的な支援機能と連携機会
本プログラムの特徴として、専門メンターによるハンズオン支援が挙げられます。研究チームや創業初期のベンチャーに対して、実際に手を動かしながら事業化を支援する体制が整っています。
支援内容には、以下のような項目が含まれます。
- 6ヶ月間の伴走支援による事業計画・技術ロードマップのブラッシュアップ
- 投資家(VC)や事業会社とのピッチ・マッチング機会の提供
- 公的機関の競争的資金獲得支援や規制対応支援のコーディネート
- 川崎市に集積する製造業ネットワークへのアクセス支援
Helioverseの体制、連携先、開発計画の詳細
HelioverseはCleveland Clinicの長年にわたる人工心臓研究実績と、日本側のパワーエレクトロニクスやワイヤレス給電技術の専門家、ビジネスリーダー、規制対応専門家、国際弁護士らが結集したチームです。国立循環器病研究センターの医師陣とも連携しています。
同社は既にサポーター企業2社と守秘義務契約(NDA)を締結しディスカッションを開始しており、今回のプログラムを通じて川崎市の製造業集積と先端部品産業のネットワークを活用して、高性能モーターやベアリング、磁気浮上技術、精密加工、電磁干渉対策分野の有力企業との新たな接点を構築することを目指します。
組織と拠点情報
以下にHelioverseの主要な組織情報を整理します。日本法人は2025年設立で、東京・南青山に事務所を構えています。
- 名称
- Helioverse Innovations Inc.(本社: Ohio州)、日本法人: Helioverse Innovations Japan 株式会社
- 代表者
- 黒田 太陽(CEO)
- 本社設立
- 2024年(米国)
- 日本法人設立
- 2025年
- 日本法人所在地
- 東京都港区南青山3丁目1番36号 青山丸竹ビル6F
- URL
- https://www.helioverseinnov.com/
- 問い合わせ
- contact@helioverseinnov.com
開発スケジュールと具体目標
公表されている主要なマイルストーンは以下の通りです。プロジェクトは段階的に進捗管理され、2026年3月までに第1世代プロトタイプを完成させ、前臨床試験への移行準備を行うことが明示されています。
- 2025年度: Kawasaki Deep Tech Accelerator採択(本プログラムによる支援開始)
- 2026年3月: 補助人工心臓の第1世代プロトタイプ完成(目標)
- 2026年以降: 前臨床試験への移行準備
- 2030年: 臨床試験開始(目標)
Kawasaki市の支援体制とプログラムの枠組み
川崎市はNEDO等の公的機関や地元産業振興財団と連携し、研究開発型ベンチャー支援を進めています。起業家支援拠点としてK-NIC(Kawasaki-NEDO Innovation Center)などを運用し、創業や事業成長を支える仕組みが整備されています。
本プログラムは、医療・ライフサイエンスだけでなく、デバイス、モビリティ、ロボット、創薬、エネルギー、AI、IoT、航空・宇宙など幅広い技術領域の研究開発型ベンチャーを対象にしており、投資や共同研究、製造連携に繋がる支援が提供されます。
プログラム運営と問い合わせ先
本プログラムは川崎市主催、upto4株式会社が運営協力を行っています。支援に関する問い合わせ先は以下の通りです。
| 運営事務局 | 連絡先 |
|---|---|
| upto4株式会社(プログラム運営事務局) | support@upto4.com / 080-3714-4321 |
| 川崎市経済労働局イノベーション推進部 創業担当 | 28innova@city.kawasaki.jp / 044-200-2334 |
プログラムの公式ページ: https://kawasaki-dta.upto4.com/
要点の整理
以下の表は、本記事で取り上げたHelioverse Innovationsの採択内容、目的、体制、主要な日程や連絡先などを整理したものです。事実関係を明確にするために、プロジェクトの目的や期日、支援体制を一覧化しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| プロジェクト名 | 電源ケーブルの無い超小型カテーテル式人工心臓の開発(ワイヤレス完全植込み型電源システム) |
| 採択 | 2025年度 Kawasaki Deep Tech Accelerator 研究開発型ベンチャー企業成長支援事業 支援先 |
| 目的 | 体外ドライブラインを不要とすることでデバイス感染リスクを低減し、患者のQOL改善と安全性向上を図る |
| 主要パートナー | Cleveland Clinicの人工心臓研究チーム、国立循環器病研究センター、サポーター企業2社(NDA締結済) |
| 技術分野 | ワイヤレス給電(大電流供給)、高性能モーター、ベアリング、磁気浮上、精密加工、電磁干渉対策 |
| 主なスケジュール | 2026年3月: 第1世代プロトタイプ完成(目標)、2030年: 臨床試験開始(目標) |
| 公表データ | 5年生存率は70%超、デバイス感染発症率は約22%(出典: Annals of Thoracic Surgery, 2024) |
| 会社情報(日本法人) | Helioverse Innovations Japan 株式会社、所在地: 東京都港区南青山3-1-36 青山丸竹ビル6F、設立: 2025年 |
| 問い合わせ | contact@helioverseinnov.com / サイト: https://www.helioverseinnov.com/ |
| プログラム連絡先 | support@upto4.com / 080-3714-4321、28innova@city.kawasaki.jp / 044-200-2334 |
本件は医療機器分野における技術融合と産学連携の一例であり、採択により川崎市の産業集積や支援資源が実際の製品開発と結び付き、今後の技術実装や臨床応用を目指す上での重要な進展が期待されます。