旧絹織物工場が再生、空間堂で『舟の上で』展示
ベストカレンダー編集部
2025年11月22日 06:07
舟の上で(展示)
開催期間:11月8日〜12月7日
空間堂シェアアトリエ――織りと時間が重なる場の記憶
空間堂シェアアトリエはかつて絹織物会社として多くの人々が織物に携わった仕事場でした。その歴史的背景を持つ建物は一度幕を閉じたものの、時を経て作家たちが再び集う制作の場へと生まれ変わりました。今回の展示は、その建物を〈舟〉と捉え直すことで、過去の仕事のリズムや素材との関係性を現代の制作行為の文脈へと引き継ぐ試みです。
展覧会のコンセプトでは、舟の形をした織道具のシャトルになぞらえ、空間堂シェアアトリエ自体を一つの「舟」と見立てています。かつての機械音や職人の手の動きが染み込んだ場所に、5人の作家が乗り合わせ、それぞれがこの土地の歴史・自然・空間・拾い集めたものたちに応答する作品を発表します。普遍的な「つくる」行為を通して、場との関わりを見つめ直す機会を提示します。
会場で使用される写真は、参加アーティストの小野坂葉子さんのInstagramより引用されています。写真の出典は明記されており、視覚資料として作家自身の発信も展示の文脈に組み込まれています。
「舟の上で」に見る5人の作家と制作の焦点
展示には5名の作家が参加し、それぞれが素材や技法、場の記憶と向き合う多様な方法で制作を行っています。以下では各作家の略歴と現在の活動内容、作品に込めた主題を整理します。
作家は共に空間堂のシェアアトリエを拠点に制作を進めてきた面があり、土地や工房に根ざした制作プロセスが作品表現に反映されています。個々のアプローチは異なりますが、共通して手作業や素材の反復的な扱いを通じて「時間」や「記憶」を物質化する姿勢が見られます。
イ・ヘリム(李 へリム)
韓国生まれ、日本在住の作家。時間と記憶、日常に潜む忘却の感情を主題に制作を行っています。自身で漉いた紙を用い、素材と手作業の反復によって抽象的な概念である「時間」の物質化を試み、層を重ねた紙表現によって記憶が薄れてゆく感覚や繰り返される日常の一瞬の感情をすくい取る表現を行っています。
学歴としては2024年に多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程を修了し、博士号(美術)を取得しています。作品制作は紙の質感や層構造を生かした抽象的なインスタレーションが中心とされています。
小野坂葉子
絣織(かすりおり)の技法に着目しテキスタイル作品を制作する作家です。防染して染め分けた糸を用い、伝統的な絣織技法の制約の中から生まれる色や形、視覚効果を通じて文様を描くことを探求しています。成果物は手仕事の痕跡と技術の制約が重なり合う視覚言語を提示します。
学歴は2024年に多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程デザイン専攻テキスタイルデザイン研究領域を修了。展示写真は小野坂葉子さんのInstagramからの引用で、作家による視覚表現の一端が来場前から参照できます。
河﨑日菜子
織物作家として風土に根ざした染織文化を深く理解しながら、人の手と繊維素材の関わりを見つめて制作しています。空間堂のシェアアトリエ立ち上げに携わり、同所を拠点として活動を行ってきましたが、現在は京都へ移動して活動しています。
略歴としては2018年に多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻を卒業、2019〜2021年は西表島の紅露工房で研修、2021〜2025年は多摩美術大学テキスタイル研究室で副手・助手として勤務、2025年からは京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程在学中となっています。地域に根ざした技術継承と学術的な探究を併行しています。
鶴見朋世
素材の組み合わせや構造から生まれる奥行きある表情を探求する作家です。人・素材・空間の関係性をテーマに制作し、繊維を言語と捉えて視覚を超えた対話を可視化することで感覚を拡張することを試みています。
鶴見の作品は空間に漂う余白や瞬間を捉え、詩的な世界を紡ぐインスタレーションとして現れます。素材の持つ物理性と記憶を引き出すことで見る者の感覚を誘導する手法が特徴です。
松田光二
日常の道具や素材の造形活動を通じて、古い家屋の土壁や海辺で拾った石、使われなくなった木片、忘れられようとしている技術の中に人との新たな関係性の可能性を見出して活動しています。長年にわたり造形制作を続け、空間堂の活動とも深く関わっています。
略歴は1955年長野県松本市生まれ、1979年多摩美術大学デザイン科染織デザイン専攻卒業。1995年に独立し屋号「空間堂」で府中にてデザイン活動を開始、2022年に八王子中野上町に工房を移し、テキスタイルを中心としたシェアアトリエを併設。若い作家と共に造形活動を行って現在に至ります。
展示の実施内容と観覧情報
展示は八王子芸術祭の一環として「マチイロProject」内で開催されます。会期中は金曜・土曜・日曜・祝日に開室し、時間は午前10時から午後5時までです。会場は空間堂シェアアトリエ(東京都八王子市中野上町1-26-3 空間堂)となっており、来場にあたっては会場の開室日にご注意ください。
展示運営主体は空間堂シェアアトリエで、問い合わせは公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団が担当しています。問い合わせ先は042-621-3005(受付時間 9:00〜17:00)です。入場料は原則無料ですが、八王子芸術祭全体で一部有料プログラムが設定される場合があります。
- 展示日時:期間中の金・土・日・祝、10:00〜17:00
- 会場:空間堂シェアアトリエ(東京都八王子市中野上町1-26-3)
- 主催:空間堂シェアアトリエ(展示)/八王子市、公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団(芸術祭全体)
- 問い合わせ:(公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団 042-621-3005(9:00〜17:00)
- 写真クレジット:参加アーティスト小野坂葉子のInstagramより引用
八王子芸術祭2025――土地に染み込む表現の場
八王子芸術祭は2023年に始まり、地域の歴史・自然・文化を背景に、その土地に染み込むアート作品を旧工場跡や古民家、屋外施設、公園など多彩な会場で展開する取り組みです。美術・音楽・演劇に加えてワークショップ、トーク、パフォーマンス、地域参加型のプログラム「マチイロProject」などを実施し、訪れる人が地域の風景や時間に触れることを意図しています。
2025年の開催概要は以下の通りです。会期は2025年11月8日(土)から12月7日(日)で、水曜日定休。会場は中野・大和田・小宮・石川および周辺複数会場。入場料は無料で、ただし一部プログラムは有料となる場合があります。主催は八王子市と公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団です。
- 開催期間
- 2025年11月8日(土)〜12月7日(日)※水曜日定休
- 会場
- 中野・大和田・小宮・石川および周辺複数会場
- 入場料
- 無料(一部有料プログラムあり)
- 主催
- 八王子市、公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団
運営チーム(2025外部運営チーム)
八王子芸術祭2025の外部運営チームは以下のメンバーで構成されています。クリエイティブディレクションやキュレーション、デザインなど制作全般に関わる体制が整えられています。
- Creative Direction:中村 寛
- Art Production:戸田 史子
- Curation:田坂 和実、原 ちけい
- Design:鄭 呟采、足達 真帆
八王子芸術祭の公式情報は公式ウェブサイトとSNSアカウントで公開されています。詳細や各会場プログラムは公式サイトを参照してください。
公式サイト:八王子芸術祭|Hachioji Arts Journey|アートとまちの10年旅
公式SNS:Instagram(八王子芸術祭 @hachioji_arts_journey)
展示情報の要点まとめ
ここまでの本文で触れた展示の主要情報を表にまとめて整理します。会期、会場、参加作家、問い合わせ先などを一覧で確認できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 展示名 | 【八王子芸術祭】舟の上で(マチイロProject) |
| 会期(展示) | 期間中の金・土・日・祝(八王子芸術祭期間内:2025年11月8日〜12月7日) |
| 開室時間 | 10:00〜17:00 |
| 会場 | 空間堂シェアアトリエ(東京都八王子市中野上町1-26-3) |
| 主催(展示) | 空間堂シェアアトリエ |
| 問い合わせ | (公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団 042-621-3005(9:00〜17:00) |
| 入場料 | 無料(八王子芸術祭全体では一部有料プログラムあり) |
| 参加作家 | イ・ヘリム、小野坂葉子、河﨑日菜子、鶴見朋世、松田光二 |
| 写真クレジット | 参加アーティスト 小野坂葉子 のInstagramより引用 |
| 八王子芸術祭 全体情報 | 開催期間:2025年11月8日〜12月7日(※水曜定休)/会場:中野・大和田・小宮・石川ほか複数会場/公式サイト:https://hachioji-arts-journey.com/ |
| 外部運営チーム(2025) | Creative Direction:中村 寛、Art Production:戸田 史子、Curation:田坂 和実・原 ちけい、Design:鄭 呟采・足達 真帆 |
本展示は、かつて織物の仕事場であった建物が再び作家の手によって息を吹き返し、素材や歴史、日常の反復を通して〈場〉への応答を立ち上げる試みです。来場者は展示を通じて、手仕事と時間の積層が生む表現をたどることができます。展示および八王子芸術祭の詳細は公式ウェブサイトで確認してください。
参考リンク: