再春館製薬所とワタスミ、廃液のエネルギー化を2026年7月に実証
ベストカレンダー編集部
2025年10月30日 13:55
化粧品廃液資源化実証
開催日:7月1日
化粧品廃液の“難分解性”をエネルギーへ変える共同挑戦
株式会社再春館製薬所(本社:熊本県上益城郡益城町、代表取締役社長:西川正明)と、沖縄科学技術大学院大学(OIST)発のスタートアップであるWatasumi株式会社(本社:沖縄県国頭郡恩納村、CEO:David Simpson)は、化粧品業界で問題視されてきた“難分解性”廃液の処理と資源化を目的とした共同実証実験を開始しました。両社は、微生物燃料電池技術を活用して廃液を分解しつつ、バイオガスや電気等の再生可能エネルギーを同時に回収する仕組みの実証を図ります。
今回の取り組みは、化粧品製造に伴う産業廃棄物が抱える環境負荷とコストの課題に対して、製品廃液を単なる廃棄物として終わらせずに価値ある資源へと転換することを目指すものです。特に防腐剤や油剤、粉体(例:酸化チタン)といった化粧品特有成分は微生物での分解が困難であり、本共同実証はその克服を目指す世界的にも先進的な挑戦です。
なぜ難しいのか―化粧品廃液の実態と本実証の目的
化粧品廃液が難分解となる主な要因には、以下のような成分構成の複雑さがあります。これらは一般的な排水処理や既存の生物処理技術では十分に分解されないことが多く、処理工程の設計を困難にしてきました。
- 防腐剤:品質保持に不可欠だが微生物分解性が低い。
- 多種多様な油剤:乳化剤やシリコーン系など、組成が多岐にわたる。
- 粉体(例:酸化チタン):無機微粒子が混在し、物理的・化学的処理の負荷となる。
これらの成分が混在する高濃度廃液は、BOD/COD(生物化学的酸素要求量/化学的酸素要求量)などの評価指標上も高い値を示し、従来の処理施設では適切に対応できないケースが発生します。本共同実証実験は、こうした化粧品特有の複雑な成分に対して、微生物燃料電池技術がどこまで有効に機能するかを確認することを目的としています。
実験に至った背景
再春館製薬所は1932年創業の漢方理念に基づく製薬会社で、化粧品『ドモホルンリンクル』をはじめとする事業を展開しています。企業理念は「人間も自然の一部」であり、自然との共生を重視する立場から廃棄物の資源化に向けた取り組みを強化しています。
WatasumiはOIST由来の技術を基盤とするベンチャーで、これまで飲料等比較的単純な廃水での微生物燃料電池の実績があり、廃水処理とエネルギー回収を両立させる技術の活用が期待されています。両社の知見を組み合わせることで、化粧品業界の環境負荷低減を目指す実証につながりました。
実証実験の具体的な内容とスケジュール
本実証は、2026年7月からラボスケールでの試験を開始する計画です。対象となるのは再春館製薬所の主力製品であるドモホルンリンクルの廃液で、2026年1月にリニューアル予定の新処方を含めて検証を行います。処理効果の評価にはBOD/COD測定を用い、化粧品特有成分に対する分解性能やエネルギー回収量を定量的に確認します。
微生物燃料電池を活用することで、廃液中の有機物を微生物が分解する過程で電気を取り出し、また発生するメタン等のバイオガスを回収することを目指します。これにより単なる処理ではなく、廃液からのエネルギー創出という観点での資源循環モデル確立を追求します。
技術の要点
Watasumiの技術は、微生物が電極に電子を供与することで電流を発生させる微生物燃料電池(MFC)を用いる点が特徴です。従来の生物処理では分解が困難だった成分に対しても、特定の微生物コミュニティや電気化学的環境を調整することで分解能を高めるアプローチを採ります。
過去の適用事例では飲料産業由来の比較的単純な廃水に対して有効性が確認されていますが、化粧品廃液は成分の多様性と濃度の高さによりさらに難易度が上がります。本実証ではこれらの差異を踏まえたプロセス設計と運転条件の最適化が課題となります。
実験計画の詳細
- 開始時期
- 2026年7月(ラボスケール)
- 対象廃液
- 再春館製薬所の『ドモホルンリンクル』の廃液(2026年1月リニューアル予定の新処方を含む)
- 評価指標
- BOD/COD測定、分解率、発電量、バイオガス生成量など
- 主な目標
- 防腐剤・油剤・粉体を含む高濃度廃液の分解性評価とエネルギー回収の有効性検証
期待される効果と両社の見解
本共同実証が成功すれば、化粧品業界の廃棄物処理に新たな選択肢が生まれ、製造現場の環境負荷低減とコスト構造の改善が見込まれます。廃液を処理する際に発生するガスや電気を有効活用できれば、工場のエネルギー需要の一部をまかなうことも想定されます。
また、再春館製薬所が掲げる「自然との共生」「人間も自然の一部」という理念に基づき、廃棄物の価値化を通じた循環型ビジネスモデルの構築は、地域社会や業界全体のサステナビリティ向上につながる可能性があります。
両社のコメント
- 再春館製薬所 ポジティブエイジ統括本部 経営責任者 井手芳信
-
理念の実現に向け、大きな一歩を踏み出せたとする考えを示しています。化粧品特有の複雑な成分処理という高いハードルに対し、Watasumi社の技術と再春館製薬所のものづくりの知見を組み合わせ、熊本からサステナブルなモデルを発信すると述べています。
- Watasumi株式会社 CEO David Simpson
-
再春館製薬所の自然由来の製品に対する姿勢を評価しつつ、化粧品廃液は飲料等と比べて格段に複雑であり、技術的には大きな挑戦であると語っています。成功した際のインパクトの大きさを強調し、共同実証を通じて持続可能な社会への貢献を目指す考えを示しています。
再春館製薬所の企業背景とプロジェクトの社会的意義
再春館製薬所は1932年に熊本で創業し、漢方理念に基づく医薬品・医薬部外品・化粧品の製造・販売を行っています。主な製品には『痛散湯』や『ドモホルンリンクル』が含まれ、地域に根差した事業活動や震災後の復興支援の取り組みを続けてきました。
企業としては「自然とつながり、人とつながる明日を」という理念を掲げ、自然由来の資源を有効活用する製造方針を採っています。自社が運営するポータルサイト『再春館製薬所 ふるさと納税サイト』などを通じて地域と連携した価値創造にも取り組んでいます。
- 企業名:株式会社再春館製薬所
- 所在地:熊本県上益城郡益城町
- 代表:代表取締役社長 西川正明
- 主要製品:『ドモホルンリンクル』『痛散湯』など
- 公式サイト:https://www.saishunkan.co.jp/
要点の整理(本記事で取り上げた事項の一覧)
以下の表は、本共同実証実験に関する主要な情報を整理したものです。取り組みの目的、対象、技術、スケジュール、関係者などを一目で確認できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| プレスリリース日 | 2025年10月30日 10時00分 |
| 共同実証の主催 | 株式会社再春館製薬所 × Watasumi株式会社(OIST発スタートアップ) |
| 目的 | 化粧品特有の防腐剤・油剤・粉体を含む高濃度廃液の分解とエネルギー(バイオガス・電気)回収 |
| 技術 | 微生物燃料電池(微生物による分解と電気回収)、バイオガス回収 |
| 対象廃液 | 再春館製薬所の主力製品『ドモホルンリンクル』の廃液(2026年1月リニューアルの新処方を含む) |
| 評価指標 | BOD/COD測定、分解率、発電量、バイオガス生成量 |
| スケジュール | ラボスケール実験開始:2026年7月(パイロット実験へ順次移行予定) |
| 所在地(両社) | 再春館製薬所:熊本県上益城郡益城町 / Watasumi:沖縄県国頭郡恩納村 |
| 主要関係者 | 再春館製薬所代表取締役社長 西川正明、ポジティブエイジ統括本部 経営責任者 井手芳信、Watasumi CEO David Simpson |
| 関連リンク | https://www.saishunkan.co.jp/ |
本共同実証は、化粧品業界が直面する廃棄物処理の難題に対して、技術と理念を結びつけて解決を模索する取り組みです。ラボスケールでの検証を経て、パイロット実験・実運用へと段階的に進める計画が示されており、業界全体のサステナビリティに寄与する可能性が期待されます。
以上が、再春館製薬所とWatasumiによる共同実証実験の概要と詳細です。関係各社の役割、技術的な焦点、スケジュール等を整理して紹介しました。
参考リンク: