CNFで土壌の保水性向上 灌漑50%でも作物成長を維持
ベストカレンダー編集部
2025年9月8日 05:59
CNFで土壌保水向上
開催日:9月7日

植物由来の新材料「セルロースナノファイバー(CNF)」が示す土壌改良の可能性
国立大学法人岡山大学の研究チームは、植物由来の新材料であるセルロースナノファイバー(CNF)が土壌の保水性を高め、渇水時にも農作物の発芽・生育を支えることを明らかにしました。プレスリリースは2025年9月7日22時03分付で公開されています。
CNFは植物由来である点が特徴で、土壌に対してわずか1%の施用量で効果が確認されています。研究は土壌中の「植物が実際に利用できる水分(plant-available water)」に着目して評価を行い、保水性の向上や生育への影響を定量的に示しました。

背景となる問題意識
気候変動の影響は地域ごとに異なりますが、世界的には渇水が予想される地域が多数あり、特に東南アジアの一部では灌漑水の不足が懸念されています。こうした状況は主要な食料生産地域に大きな影響を与えるため、低環境負荷で土壌改良できる技術や材料が求められています。
CNFは生分解性を有する植物由来の素材であり、土壌環境を改善する材料として注目されています。本研究はCNFの導入が実際の植物生育にどのように寄与するかを、灌漑量の削減状況を含めて検証した点が重要です。

実験結果:1%のCNF施用で得られた具体的効果
研究チームの実験では、土壌に対してわずか1%のCNFを施用することで、複数の有意な効果が確認されました。主な結果は以下のとおりです。
- 発芽率の改善
- 植物が利用可能な水分量の増加
- 灌漑水を50%に削減した条件でも、100%灌漑時と同等の植物生長が期待できること
- 灌漑水あたりの生長(灌漑水利用効率)の増大
これらの結果は、渇水下での農業生産性低下の抑制に寄与する可能性を示しています。特に「灌漑水が50%に減少しても100%灌漑と同等の植物生長が期待される」という点は、限られた水資源を効率的に活用するうえで重要な知見です。
研究では、CNFが土壌中の水分を「植物が利用できる領域」により多く貯留することを示しており、単に総水分量を増やすだけでなく、植物生育に直結する形での水供給性を改善している点が確認されています。

実験条件と評価項目
研究は複数の灌漑水量(灌漑量100%、50%、25%)を設定し、CNFの有無で植物の発芽率・生育量・土壌中の水保持特性を測定しました。特に灌漑量50%での結果が注目され、CNFの施用が灌漑削減時の生育維持に寄与することが示されました。
評価には植物の発芽率、乾物重や生長速度の比較、土壌の粒子凝集性(aggregate stability)および水保持曲線などの物理化学的指標が含まれています。

研究体制・論文掲載・資金情報
本研究は岡山大学学術研究院 環境生命自然科学学域(環境保全学・土壌環境工学)に所属する森也寸志教授(学術研究院 環境生命自然科学学域)と、博士後期課程2024年修了のNgo Thuy Anさんらによって実施されました。研究成果は国際誌に掲載されています。
掲載情報は次のとおりです。いずれの論文も査読付きの国際誌で発表され、最初の論文は被引用数が上位5%に入るなど注目されています。
- 論文1
- タイトル:Effects of cellulose nanofibers on soil water retention and aggregate stability.
掲載誌:Environmental Technology & Innovation, 35, Article 103650. (2024年8月)
著者:Ngo, A. T., Mori, Y., & Bui, L. T.
DOI:doi.org/10.1016/j.eti.2024.103650 - 論文2
- タイトル:Cellulose nanofibers boost soil water availability, plant growth, and irrigation water use efficiency under deficit irrigation.
掲載誌:Catena, 254, Article 108998. (2025年6月30日)
著者:Ngo, A. T., Nguyen, M. C., Maeda, M., & Mori, Y.
DOI:doi.org/10.1016/j.catena.2025.108998
研究は独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の科研費による支援を受けています。具体的には基盤研究A(21H04747, 2021–2024)および基盤研究S(24H00057, 2024–2028)の助成です。

研究者のコメント
森也寸志教授は、本研究について「Anさんと取り組んだ研究がここまで大化けするとは思いませんでした。植物が実際に利用できる水分に注目した点が秀逸でした」と述べています。
また、研究を主導したNgo Thuy Anさんは「この研究が、農家の方々の水不足に対応する手助けとなることを願っています。またこのような解決策に、森先生と取り組めたこと光栄に思います」とコメントしています。

研究公開情報・問い合わせ先と関連リソース
研究の詳細やプレスリリース本文、関連資料は岡山大学のウェブサイトで公開されています。以下のリンクから原資料や報道用素材にアクセス可能です。
- 岡山大学プレスリリース(該当ページ)
- 岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域 環境保全学(土壌環境工学): https://soilenvieng.wordpress.com/
研究機関や産学連携に関する問い合わせ先も明記されています。連絡先情報は研究発表の透明性と利用促進のために公開されています。
- 研究代表者(森教授)
- 岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域(工)教授 森 也寸志
住所:〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1 岡山大学津島キャンパス
TEL:086-251-8875
URL:https://soilenvieng.wordpress.com/ - 産学官連携の問い合わせ
- 岡山大学研究・イノベーション共創機構 産学官連携本部
住所:〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
TEL:086-251-8463
E-mail:sangaku@okayama-u.ac.jp(プレスリリースでは ◎ を @ に置換)
URL:https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/ - 研究機器共用(チーム共用)
- TEL:086-251-8705 / FAX:086-251-7114
E-mail:cfp@okayama-u.ac.jp(プレスリリースでは ◎ を @ に置換)
URL:https://corefacility-potal.fsp.okayama-u.ac.jp/ - スタートアップ・ベンチャー関連
- E-mail:start-up1@adm.okayama-u.ac.jp(プレスリリースでは ◎ を @ に置換)
URL:https://venture.okayama-u.ac.jp/

まとめ:要点の整理
本稿では岡山大学の研究発表に基づき、CNFの土壌への適用がもたらす効果と研究の公表情報、資金や連絡先を整理しました。以下の表に主要な情報をまとめます。
項目 | 内容 |
---|---|
発表機関・発表日時 | 国立大学法人岡山大学、2025年9月7日 22:03 |
研究テーマ | セルロースナノファイバー(CNF)による土壌の保水性向上と植物生育支援 |
主な成果 | 土壌に1% CNF施用で発芽率改善、植物が利用可能な水分増加、灌漑50%でも100%と同等の生長が期待、灌漑水利用効率向上 |
掲載論文 | Environmental Technology & Innovation (2024, Article 103650)、Catena (2025, Article 108998) |
主要著者 | Ngo Thuy An、Mori Y.(森也寸志)、他 |
支援・助成 | JSPS 科研費:基盤研究A(21H04747, 2021–2024)、基盤研究S(24H00057, 2024–2028) |
問い合わせ | 岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域(森教授) TEL:086-251-8875、産学連携本部 TEL:086-251-8463 |
関連URL | 岡山大学プレスリリース、DOI: 10.1016/j.eti.2024.103650、10.1016/j.catena.2025.108998 |
以上の情報は岡山大学の公開資料および掲載論文に基づくものであり、CNFの土壌改良効果は実験的に示されています。気候変動下で水資源が制約される地域における農業生産の安定化に対して、植物由来の材料を用いる一つの有力なアプローチが提示されています。
参考リンク: