VUILD×福島ユナイテッド 木の循環で描く5000席構想

福島木造スタジアム構想

開催日:8月30日

福島木造スタジアム構想
このスタジアムはいつできるの?
発表は2025年8月30日に計画案が公開された段階で、着工日や完成時期は明記されていません。今後の解析や地域合意を経て実施時期が決まる見込みです。
リジェネラティブって具体的にどんなことをするの?
地元産材を活用した木造構造、住民参加によるユニット製作、雨水再利用や氷蓄熱、太陽風を活かすパッシブ設計など資源とエネルギーの循環を実現する手法です。

木と人が紡ぐ、福島の「リジェネラティブ」スタジアム構想

2025年8月30日18時、建築系スタートアップのVUILD株式会社は、スポーツXが運営するサッカークラブ福島ユナイテッドFCと共同で、福島県におけるホームスタジアムの計画案を公開しました。本計画は震災と原発事故を経た福島の歴史的背景を踏まえ、復興の象徴として再生(リジェネラティブ)なスタジアムを目指すものです。

公開された構想は、単なる競技施設の設計に留まらず、地域資源の循環と市民参加を組み合わせた総合的な取り組みを核としています。クラブエンブレムに刻まれた「不死鳥」の理念を体現する建築デザインを掲げ、地域の木材を活用した木造構造、参加型の建設プロセス、自然エネルギーを最大限に活用する環境設計を組み合わせています。

  • 発表日:2025年8月30日 18:00
  • クライアント:スポーツX、福島ユナイテッドFC
  • 主導:VUILD(意匠設計担当)
VUILD、スポーツXと循環型木造スタジアムの構想を公開 画像 2

設計の核:小断面の周回構成とHPシェルを組み合わせたヒューマンスケール

本計画は規模約5000席のスタジアムを想定し、設計上の大前提として「小断面を周回させる」という考え方を採用しています。これは、2階建て住宅規模の断面を連続させることで全体を構成し、メガストラクチャー化を避けることでコストや施工性の課題に対応する手法です。

平面計画では建物を3000m2以下に分割し、断面は2階建・高さ16m以下として準耐火建築物に収める方針です。4棟の境界部をエントランスとし、動線と分節を兼ねることで地域利用や避難動線にも配慮した設計としています。

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意匠設計の特徴

意匠面では、観客席や付帯施設の配置、景観との調和が重視されています。1階には更衣室や控室、トイレ、売店等を配置し、2階のメインスタンド側にはVIP席・実況席など主要機能を集約。バックスタンド側には収益性を勘案してホテル機能を導入する計画です。

外観は福島の伝統的建築景観を参照し、「大内宿」の茅葺きの三角屋根が連続するような連続した屋根景観を生み出すことを志向しています。これにより地域性と象徴性を兼ね備えた存在感をつくります。

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構造設計の要点

構造的には約12mのスパンを確保する必要があり、小断面材を束ねることで形成するHPシェル構造を採用しています。HPシェルは高い剛性を持ち、短いスパンの跳ね出しと長手方向の大スパンを両立させられる点が特長です。

HPシェル上にはトラスを載せ、そこから懸垂曲面状に木材を吊り下げる手法を組み合わせます。直線的な製材をずらしながら捻じることでHP曲面を形成し、トラスやビス止めといった接合法によりプレストレスを導入して形状の安定性を確保します。

主要な仕様
座席規模:5,000席
建物分割:3000m2以下のユニット化
断面高さ:2階建て、16m以下
スパン:概ね12mを目処にHPシェルと懸垂曲面で対応
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循環するエネルギーと環境設計:盆地型気候を活かしたパッシブ戦略

環境設計は福島の盆地型気候を前提に、自然エネルギーの最大活用を図るパッシブデザインを中核としています。屋根形状や外壁形状を意図的に変化させることで季節ごとの日射や卓越風を制御し、消費エネルギーを削減する設計としています。

屋根は夏期に日射を遮り、冬期に冷風を防ぐ形状とし、南側屋根の長さを短くして芝生面への光到達を確保します。雨水は屋根で集水し、客席下の貯留槽に貯めて散水やトイレ洗浄水に再利用します。

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具体的な環境施策

外壁はウインドキャッチャーとして機能させ、北西からの卓越風を取り込み観客席やフィールドに自然換気を導きます。客席下部に通風スリットを設けることで全方位から風が流れる環境を形成し、芝生の生育条件にも配慮します。

また、冬季の低温を利用して氷を生成・保存し、夏期にその冷気を冷房に活用する氷蓄熱システムを計画しています。敷地内で生産した再生可能エネルギーを蓄電・貯蔵し、最終的にはエネルギーの自給自足を目指します。これらの取り組みにより、国際的な環境指標であるLiving Building Challengeの取得に挑戦する方針です。

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解析と多目的最適化

デザインの妥当性は解析手法によって検証されます。FEM解析で構造の変形量を評価し、CFD解析で風の挙動を確認、年積算照度解析で芝生育成に適した光条件を検証する計画です。これらの解析結果を基に、複数の性能指標を同時に評価する多目的最適化を実施します。

最適化においては、観客の熱的快適性を示すSET(気温・湿度・気流・放射・着衣量・代謝量に基づく指標)、構造材使用量によるカーボンニュートラル寄与量、ピッチ面での風速や芝生育成環境などを評価指標として扱い、総合的な最適解を選定します。

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プロジェクト体制、施工手法、クレジット

本プロジェクトはVUILDが意匠設計、Arupが構造および環境設計などを担当する協働体制で進められます。デジタル設計からデジタルファブリケーションまで一貫して担うVUILDの技術と、世界的エンジニアリング企業であるArupの解析・環境設計力を組み合わせることで、リジェネラティブ建築の実現を目指します。

施工手法は、部材をオフサイトで住民らと共にユニット製作し、現地でアッセンブルする方式を採用します。地域参加者が部材を運び引き起こす儀礼的な組み立てプロセスを取り入れることで、建設そのものを地域の祭礼的な行為へと昇華させる意図が示されています。

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主要クレジット

  • クライアント:スポーツX、福島ユナイテッドFC
  • 意匠設計:VUILD(秋吉浩気、 中澤宏行、 伊勢坊健太、 山中歩)、ボーダレス総合計画事務所(鈴木勇人)
  • 構造設計:Arup(金田充弘、後藤一真、中村優太)
  • 環境設計:Arup(菅健太郎、竹中大史、銅木彩人)
  • スポーツ照明コンサル:Arup(井元純子、トレス・サンティアゴ)
  • CG製作:LITdesign(植村明斗、坂本翔吾、チャンコンヴィンクイ)
  • イラスト製作:VUILD(沼田汐里)
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VUILDの企業情報

VUILD株式会社は2017年11月21日に創業された建築系スタートアップで、代表取締役は秋吉浩気氏。資本金は1億円、本社所在地は神奈川県厚木市下依知1丁目7-24です。事業内容は建築設計、木製品開発および製造、CNCルーターの販売、デジタル人材育成、事業開発支援、ITサービス開発など多岐にわたります。

コーポレートURL:https://vuild.co.jp/

要点の整理

ここまでに示された計画の主要事項を表形式で整理します。以下の表は発表された内容を項目ごとにまとめたものであり、設計方針、構造方式、環境戦略、関係者情報を一望できるようにしています。

項目 内容
発表日 2025年8月30日 18:00
クライアント スポーツX、福島ユナイテッドFC
想定座席数 約5,000席
構造方式 HPシェル+懸垂曲面(直線製材の束ね・NLT的接合)
建物規模・制限 建物を3000m2以下に分割、断面2階建て・高さ16m以下(準耐火)
主要素材 福島県産の製材(地域材)
環境戦略 パッシブデザイン、雨水再利用、氷蓄熱、風の導入、再生可能エネルギーの敷地内生産・貯蔵
解析と検証 FEM解析、年積算照度解析、CFD解析、多目的最適化(SET等)
目標認証 Living Building Challenge取得に挑戦
参加型施工作法 地域住民やクラブ関係者が部材製作・運搬・組立に参加する祝祭的プロセス
主な担当 意匠:VUILD、構造・環境:Arup、CG:LITdesign、イラスト:VUILD
VUILD 会社情報 代表:秋吉浩気、創業:2017/11/21、資本金:1億円、本社:神奈川県厚木市
関連リンク https://vuild.co.jp/

公開された計画は、設計・構造・環境・施工の各領域を統合的に検討し、地域資源と人的参加を結びつけることで、福島における新たな公共的ランドマークを目指すものです。今後の詳細な実施段階では、解析結果や地域との合意形成を踏まえた設計の精緻化が進められる見込みです。

参考リンク: