アカエイ、淡水移行で尿量87倍に 腎機能の分子応答を解明

アカエイの尿排出増加

開催日:8月28日

アカエイの尿排出増加
アカエイってどのくらい尿を出すの?
海水から低塩分水へ移行すると尿量は約87倍に増加し、単位時間あたり6.4 mL/kg/hに達します。脊椎動物として極めて高い排水能力を示します。
どうやってそんな正確な尿量を測ったの?
研究チームは無麻酔下で使える独自の非侵襲・連続採尿装置を開発。ストレスや麻酔の影響を抑え長時間にわたり正確に測定しました。

淡水化に直面するアカエイ──脊椎動物でも突出した『尿排出能力』の実像

東京大学、国立遺伝学研究所、岡山大学の共同研究により、アカエイ(Hemitrygon akajei)が海水から淡水へ移行する際に示す尿量の増加と、その腎機能に関わる分子機構が詳細に明らかになりました。発表は2025年8月28日付のプレスリリースおよび学術誌iScience掲載論文(DOI: 10.1016/j.isci.2025.113274)で公表されています。

本研究は、エイ類が持つ広塩性(海水と淡水の両方に適応できる能力)という生態的特性を腎機能の観点から定量的かつ分子レベルで解析した点に特徴があります。淡水環境では外界の浸透圧がほぼ0 mOsm/kgである一方、アカエイの体液浸透圧は約600 mOsm/kgと高く、環境との浸透圧差により体内に継続的に水が流入します。過剰な水の除去が不可欠な状況で、アカエイが示す生理的戦略を具体的な数値と遺伝子発現の変化という形で示したことが本研究の要点です。

エイの淡水適応を支える驚異の腎機能-脊椎動物の中でも屈指の尿排出能力-〔東京大学, 国立遺伝学研究所, 岡山大学〕 画像 2

発表のポイントの整理

プレスリリース冒頭に示された要点としては、研究グループが独自に開発した採尿装置を用いることで、アカエイが海水から淡水へ移行する際に尿量を約90倍(発表のポイント)に増加させることを示した点が挙げられています。さらに、単位時間あたりの尿量が脊椎動物の中でも突出して多いこと、糸球体ろ過量の増加と分節特異的な水チャネル遺伝子の発現制御が関与していることが示唆されました。

本文の詳細では、希釈した低塩分水環境(約56 mOsm/kg、海水を約1/20に希釈)への移行で尿量が87倍に増加し、単位時間あたりの尿量は6.4 mL/kg/hに達したと具体的な数値で報告されています。淡水馴致後に再び海水へ戻すと尿量は移行前と同等の水準に回復し、可塑性のある応答であることも示されました。

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独自の採尿装置と測定手法──非侵襲で連続的なデータ取得

本研究で重要な技術的基盤となったのは、研究者たちが独自に開発した非侵襲的な採尿装置です。無麻酔下での連続採尿を可能にする設計により、ストレスや麻酔による生理応答の影響を最小限に抑えつつ正確な尿量測定が行えました。

この方法によって得られた時間分解能の高いデータは、環境塩分の急激な変化に対する尿生成の動的応答を解析するのに適しており、単に最終的な尿量の増減を見るだけでなく、移行直後から安定化までの過程を定量的に示せる点が強みです。

エイの淡水適応を支える驚異の腎機能-脊椎動物の中でも屈指の尿排出能力-〔東京大学, 国立遺伝学研究所, 岡山大学〕 画像 4

採尿装置の特徴と測定プロトコル

採尿装置の具体的な特徴としては、非浸襲性の採尿を可能にする構造、長時間の連続測定対応、無麻酔下での使用を前提とした動物の負担軽減設計が挙げられます。これらの特性が、得られたデータの信頼性向上に寄与しています。

実験プロトコルでは、まず海水環境でベースラインを取得し、次に海水を約1/20に希釈した低塩分水(約56 mOsm/kg)へ移行して尿量を測定、その後再び海水へ戻すことで可逆性の検証を行いました。得られたデータは移行前後の比較、時間経過による変化の解析、個体間のばらつき評価を含みます。

  • ベースライン環境:海水(通常の海水浸透圧)
  • 淡水類似環境:約56 mOsm/kg(海水を約1/20に希釈)
  • 主要測定値:尿量の増加率(87倍)、単位時間あたり尿量(6.4 mL/kg/h)
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分子レベルで解き明かされた腎機能の可塑性

単なる生理学的応答に留まらず、今回の研究は腎臓内部で起きる分子レベルの変化にも焦点を当てています。解析の結果、淡水環境における尿量増加には糸球体ろ過量の上昇と、特定分節における水チャネル遺伝子(アクアポリンなど)発現の制御が関与していることが示されました。

これらの発見は、エイ類における腎機能の多様性と可塑性を理解するうえで重要であり、魚類の環境適応戦略の一端を分子機構レベルで補強する結果です。さらに、腎臓疾患や排尿異常に関する基礎研究、比較生理学的な視点からの応用研究にもつながる可能性があります。

エイの淡水適応を支える驚異の腎機能-脊椎動物の中でも屈指の尿排出能力-〔東京大学, 国立遺伝学研究所, 岡山大学〕 画像 6

遺伝子発現と糸球体機能の観察

研究では、腎臓の分節ごとに水チャネル遺伝子の発現が制御される様子を観察しました。これにより、どの領域が主に水の排出に寄与しているかを分割的に評価でき、糸球体ろ過の増加と組み合わせることで高い尿生成能力を生み出すメカニズムの実像に迫っています。

結果は、淡水馴致時に特定の腎分節で水チャネル発現が変動し、環境塩分の変化に応じた局所的な調節が行われることを示しています。これらの発現変化は可逆的であり、海水へ戻すと元の発現パターンに戻ることが確認されました。

研究体制、論文情報、資金・問い合わせ一覧

本研究は、東京大学大学院理学系研究科(油谷直孝:大学院生/研究当時)、東京大学大気海洋研究所(髙木亙:助教、兵藤晋:教授)、国立遺伝学研究所(工樂樹洋:教授)、岡山大学(坂本竜哉:教授、齊藤和裕:技術専門職員)らの共同研究グループにより実施されました。筆頭著者を含む著者リストは論文に示されています。

掲載論文情報は以下の通りです。雑誌名はiScience、題名は”Extensive urine production in euryhaline red stingray for adaptation to hypoosmotic environments”、著者にはNaotaka Aburatani*, Wataru Takagi*, Marty Kwok-Shing Wong, Nobuhiro Ogawa, Shigehiro Kuraku, Mana Sato, Kazuhiro Saito, Waichiro Godo, Tatsuya Sakamoto, Susumu Hyodoが挙げられ、DOIは10.1016/j.isci.2025.113274です。

研究資金と支援

本研究は、以下の科研費による支援を受けて実施されました。

基盤研究B
課題番号:17H03868
挑戦的研究(萌芽)
課題番号:19K22414
特別研究員奨励費
課題番号:21J20882

これらの資金は研究の企画立案、実験装置開発、データ解析、人材育成などの複数側面で研究を支えています。

問い合わせ先と関連リンク

研究内容に関する問い合わせ先や広報窓口、大学の産学連携・共用機器窓口など、プレスリリースで示された連絡先を以下に列挙します。メールアドレス表記はプレスリリースの表記に従い、◎を@に置き換えて利用してください。

  • 研究者(研究内容について)
    • ミシガン大学 特任研究員:油谷 直孝(あぶらたに なおたか)
    • 東京大学 大気海洋研究所 助教:髙木 亙(たかぎ わたる)
  • 広報窓口:東京大学 大気海洋研究所 附属共同利用・共同研究推進センター 広報戦略室、国立遺伝学研究所 広報室、岡山大学 総務部広報課(電話:086-251-7292)
  • 岡山大学 産学官連携本部(TEL:086-251-8463、E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp)
  • 岡山大学 研究機器共用(機器共用推進本部)(TEL:086-251-8745、086-251-8746、E-mail:cfp◎okayama-u.ac.jp)
  • 岡山大学 スタートアップ・ベンチャー(E-mail:start-up1◎adm.okayama-u.ac.jp)

関連するプレスリリースや資料のURLも提供されています。岡山大学の本リリース(https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1426.html)および詳細なPDF資料(https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r7/press20250821-1.pdf)を参照可能です。

プレスリリース全体の要点整理(表)

以下の表は、本記事で取り上げたプレスリリースの主要事項を整理したものです。研究の目的、主要な測定結果、関与が示唆された分子機構、所属・著者、資金情報、問い合わせ先などを一覧にまとめています。

項目 内容
研究テーマ アカエイ(Hemitrygon akajei)の海水-淡水移行時における尿量調節メカニズムの分子レベル解析
発表日 2025年8月28日(プレスリリース)
主要結果(要点) 独自採尿装置により、海水→低塩分水で尿量が約90倍(発表のポイント)、本文では87倍と報告。単位時間あたりの尿量は6.4 mL/kg/h。
測定環境 低塩分水:約56 mOsm/kg(海水を約1/20に希釈)
分子・生理学的知見 糸球体ろ過量の増加、分節特異的な水チャネル遺伝子の発現制御が関与。淡水馴致後に海水へ戻すと尿量・遺伝子発現は回復。
主な研究機関・著者 東京大学(大学院理学系研究科・大気海洋研究所)、国立遺伝学研究所、岡山大学ほか。著者:Naotaka Aburatani*、Wataru Takagi*、ほか。
掲載論文 雑誌:iScience。題名:Extensive urine production in euryhaline red stingray for adaptation to hypoosmotic environments。DOI: 10.1016/j.isci.2025.113274
研究資金 科研費「基盤研究B(17H03868)」「挑戦的研究(萌芽)(19K22414)」「特別研究員奨励費(21J20882)」
問い合わせ先(代表例) 広報:岡山大学 総務部広報課(TEL:086-251-7292)/E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp(◎を@に替えてください) その他、研究者の連絡先はプレス資料参照
関連リンク https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1426.html、https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.113274、プレスPDF(https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r7/press20250821-1.pdf)

本稿では、プレスリリースと論文情報に基づき、アカエイの淡水適応に関する主要な発見と実験手法、関与する生理学的・分子機構、研究体制・資金・問い合わせ先を網羅的に整理しました。得られた具体的な数値と手法、資金情報や問い合わせ先までを含めて報告しています。

参考リンク: