ウポポイで交差した歌舞伎とアイヌの《ウケシコロ》
ベストカレンダー編集部
2026年2月6日 15:37
ウケシコロ公演
開催日:2月1日
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歌舞伎とアイヌ—冬のウポポイで交差した伝統の時間
2026年2月1日(日)、北海道白老町の民族共生象徴空間・ウポポイで開催された特別イベント「ウケシコロ〜紡がれるアイヌ伝統芸能と歌舞伎〜」は、歌舞伎とアイヌの伝統芸能という二つの文化が同じ舞台の時間を共有した一日となった。ウポポイ開業5周年記念多文化共生ウィークの一環として実施されたこの催しには、事前申込みで4,000名を超える応募があり、会場の座席は可能な限り増設されたほか、園内大型スクリーンによるパブリックビューイングも行われ、現地で273名の観覧者が舞台を見守った。
イベント名の「ウケシコロ」はアイヌ語で「相続する、受け継ぐ」を意味する語であり、企画の趣旨を端的に表している。主役ともいえるのは、現代歌舞伎界の至宝であり人間国宝の五代目・坂東玉三郎がゲストとして招かれたこと。歌舞伎側の代表的存在と、アイヌ伝統を伝える側が一堂に会し、舞台とトークを通じて文化継承と交流の可能性を提示した。
開催の背景と意義
本企画は、歌舞伎とアイヌ文化という一見異なる伝統芸能のあいだにある共通点を探り、現代における伝承のあり方を議論することを目的にしている。共通点の発見と新たな継承の形を提示するため、トークセッションと上演の二部構成が採られた。
当日は大雪の季節にあたり、ウポポイ園内の冬景色が舞台背景となる場面もあった。多くの来場者が会場の空気を直接感じるとともに、館外のスクリーンでの視聴を選ぶ人々も含め、幅広い層が参加した点も特徴的である。
トークで紡がれた文化継承の視点と、その対話
第1部では、坂東玉三郎と国立アイヌ民族博物館館長・野本正博によるトークセッションが行われた。テーマは「伝統と革新〜交易の向こうにみえてくるもの」。両者はそれぞれの立場から、伝承と継承の困難さ、歴史的背景に根ざした文化交流の意義について語った。
坂東玉三郎は初めて訪れたウポポイの印象を述べ、歌舞伎におけるアイヌ民族の衣類「アツシ」の使用経験などから得た親しみを基に、過去の文化交流を想起した。また、文化継承の困難について「日々一生懸命に取り組むことが革新へとつながる」と述べ、心を通わせる場の重要性を強調した。
一方で野本館長は、第2部の舞台「イノミ」に関連してイオマンテ(熊の霊送りの儀礼)を例に挙げ、同じ形でそのまま受け継げない現実を説明したうえで、だからこそ制作側が新たな挑戦を行い形を再構築していることを紹介した。野本館長はまた、日常の身近な文化に目を向けることの重要性を来場者に呼びかけた。
- トークの主なメッセージ
- ・伝統は固定化されたものではなく、継承と革新の両輪で未来へつながるという視点
- ・文化交流は技術やセンスの相互理解によって深化するという歴史的観点
舞台の詳細:全編アイヌ語の『イノミ』と坂東玉三郎の『残月』
第2部は上演を中心に構成され、ウポポイスタッフによる伝統芸能上演「イノミ」と、坂東玉三郎による地唄舞「残月」が披露された。特に「イノミ」は全編アイヌ語で演じられる舞台として上演され、その演出・所作・歌と踊りを通して祈りを表現する試みが来場者に伝えられた。
「イノミ」は、イオマンテに由来する所作や歌詞、祈りの精神を継承しつつ、現代にふさわしい舞台表現として再構築された。舞台演出とアイヌ舞踊が作り出す迫力は大きく、終演後は熱気に満ちた拍手が会場を包んだ。
続いて披露された「残月」では、歌舞伎の衣裳に身を包んだ坂東玉三郎が、儚さと静謐さを帯びた舞を見せた。刻々と移ろう感情表現と舞台の静寂が一体となり、来場者は息をのむように舞台を見つめ、フィナーレでは音のない喝采とも言える静寂の余韻が残った。
- 上演プログラム:伝統芸能上演「イノミ」(ウポポイスタッフ)
- ゲスト上演:地唄舞「残月」(坂東玉三郎)
- 演出の特色:イノミは全編アイヌ語、所作と歌を通じた祈りの表現
会場運営と視聴環境
申込数が4,000名を超えたことから会場内の座席は可能な限り増設され、より多くの来場者が会場の空気を体感できるよう園内の大型スクリーンでパブリックビューイングも実施された。会場での観覧は273名、パブリックビューイングを含めて多様な形で催しが共有された点が特徴である。
公演全体のダイジェストムービーは、3月下旬に特設ウェブサイト(https://ainu-upopoy.jp/specialevent/kabuki202602/)で公開予定と告知されている。
観客の反応と登壇者の言葉
会場では上演を終えた直後から大きな拍手が沸き起こり、来場者からは具体的な感想が寄せられた。若年層から高齢者まで、世代を超えた反応が見られた点が注目される。
来場者の声は以下の通り報告されている。
- 「アイヌ舞踊は迫力があって、儀礼を行う現地にいるような感じがした。玉三郎さんが美しかった」——札幌市在住・10代
- 「歌舞伎もアイヌ舞踊も初めて拝見したが、当時の暮らしなど大切にしているものをそれぞれの視点で踊っていて、全然違うものだけどそれぞれ大切なものを受け継ぐために試行錯誤の上でできたものだと感じて面白かった」——札幌市在住・20代
- 「玉三郎さんの文化継承に対して自問自答があると伺い知り、歌舞伎とアイヌ文化の伝承の取り組み方もまた違うと感じたし、もう一度歌舞伎も見たいとすごく思った。和文化とは異なるアイヌ文化があることで、文化を通して日本も進化していくのかなと感じた」——釧路市在住・60代
坂東玉三郎は公演を終えて、ウポポイでの「イノミ」を通じて大自然と祈りがつながる考え方に触れたこと、そして若い世代がアイヌ文化を将来へつなげようとする思いが反映された舞台であったことを振り返った。玉三郎は京都の鞍馬寺で学んだ草木に宿る神の考えとアイヌの思想に共通点を見出し、心を込めて創作すれば自然界から大きな力を受けた表現が生まれると語っている。
野本館長は、海を隔てた異民族交流の時代背景を踏まえ、相互の技術やセンスを認め求めあった歴史を掘り起こすことが本企画の背景であると述べた。玉三郎に対しては舞踊や衣装に至るまで教示を得られたことへの感謝を示し、得られた残像を新しい価値創造へとつなげていきたいと語った。
開催概要とウポポイの施設・プログラム詳細
以下は本公演の開催概要、ウポポイの基本情報、そして園内で継続的に提供されている伝統芸能プログラムの一覧である。来場・視聴に関する実務的な情報も含めて整理する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイトル | ウケシコロ〜紡がれるアイヌ伝統芸能と歌舞伎〜 |
| 開催日 | 2026年2月1日(日)13:00〜15:00(12:30開場) |
| 会場 | ウポポイ内 ウエカリ チセ(体験交流ホール) |
| 観覧者数(会場) | 273名(会場観覧) |
| 申込数 | 事前申込み4,000名超 |
| 料金 | 無料(ウポポイ入場料別途) |
| 主な出演・内容 | トークセッション(坂東玉三郎、野本正博)、伝統芸能上演「イノミ」(ウポポイスタッフ)、地唄舞「残月」(坂東玉三郎) |
| 特設サイト | https://ainu-upopoy.jp/specialevent/kabuki202602/ |
| ダイジェスト公開 | 3月下旬に特設ウェブサイトで公開予定 |
ウポポイ(民族共生象徴空間)自体の概要は以下のとおりである。2020年7月12日に開業し、国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、慰霊施設などから構成される拠点である。所在地・アクセス・入場料・開園時間などの実務情報も明示されている。
- 公式ウェブサイト:https://ainu-upopoy.jp/
- 公式SNS:Instagram(https://www.instagram.com/ainumuseumpark/)、Facebook(https://www.facebook.com/upopoy/)、YouTube(https://www.youtube.com/@upopoy)
- 所在地:〒059-0902 北海道白老郡白老町若草町2丁目3
- 電話:0144-82-3914(代表)
- アクセス:JR白老駅から徒歩約10分。新千歳空港から高速道路または列車利用で約40分。
- 入場料(税込):一般大人1,200円、一般高校生600円、中学生以下無料(20名以上は団体料金あり。※有料体験プログラムや博物館特別展示等は別料金)
- 開園時間:9:00〜17:00(時期により変動あり)
- 閉園日:月曜日、2026年2月28日〜3月9日、月曜日が祝日の場合は翌日以降の平日(特別開園日あり)
園内で定期的に提供されている伝統芸能プログラムの例も紹介されている。伝統芸能上演はウエカリ チセ(体験交流ホール)で行われ、地域の日常や儀礼に根差した歌や踊りを披露する。文化解説プログラム「ウパシクマコタン」では、集落の暮らし紹介と歌や踊りの公演を通じ、家屋や舟、狩猟具、地名など各回のテーマに沿って解説する。
| 要点 | 内容(本記事のまとめ) |
|---|---|
| イベント名 | ウケシコロ〜紡がれるアイヌ伝統芸能と歌舞伎〜(2026年2月1日開催) |
| 主要登壇者 | 坂東玉三郎(五代目・人間国宝)、野本正博(国立アイヌ民族博物館館長)、ウポポイスタッフ |
| 主な上演 | 伝統芸能上演「イノミ」(全編アイヌ語)、地唄舞「残月」 |
| 会場・動員 | ウポポイ・ウエカリ チセ(体験交流ホール)、会場観覧273名、事前申込4,000名超 |
| 料金 | 観覧無料(ウポポイ入場料は別途) |
| 関連URL | https://ainu-upopoy.jp/specialevent/kabuki202602/ |
本稿では、ウポポイで実施された「ウケシコロ」全体の構成や当日の様子、登壇者や来場者の反応、そしてウポポイが提供する恒常的なプログラムや施設概要までを整理した。公演のダイジェストムービーは3月下旬に特設サイトで公開予定であり、当日の内容に興味を持った読者は同サイトでの公開を参考にできる。