今月今夜の月の日 (記念日 1月17日)
「今月今夜の月の日」は、毎年1月17日に訪れます。明治の文豪・尾崎紅葉が『読売新聞』に連載した長編小説『金色夜叉』(こんじきやしゃ)の名場面に由来し、その舞台となった熱海では今もこの日を特別に刻んでいます。
『金色夜叉』は1897年(明治30年)の元日から連載が始まった恋愛小説です。主人公の間貫一(はざまかんいち)は、心の通じ合っていた許婚のお宮が銀行頭取の息子・富山唯継の財力に目がくらんで自分を裏切ったことを知ります。傷心の貫一は熱海の月夜の海岸でお宮に向かってこう言い放ちます——「可(い)いか、宮さん、一月の十七日だ。来年の今月今夜になつたならば、僕の涙で必ず月は曇らせて見せるから」。この台詞が、1月17日を「今月今夜の月の日」と呼ぶようになった起源です。
紅葉はこの作品を完成させることなく、1903年(明治36年)に35歳の若さで世を去りました。連載は1902年に中断されたまま未完に終わりましたが、作品が持つ力は衰えず、新派劇の代表演目として舞台化され、のちに映画やテレビドラマにもなりました。「雅俗折衷体」と呼ばれる独特の文体は当時から高く評価され、明治文学の記念碑的作品として位置づけられています。
熱海との縁は小説の枠を超えて受け継がれています。1919年(大正8年)には熱海海岸に「貫一お宮の像」が建てられ、紅葉の記念碑も隣に立っています。毎年1月17日には「尾崎紅葉祭」が催され、熱海芸妓が『金色夜叉』の名場面を舞踊で再現します。また、この夜に空が曇ることは「貫一曇り」と呼ばれ、貫一の怨念が月を隠すと言い伝えられています。百年以上を経てなお、熱海の夜空で語り継がれる悲恋の物語です。