広辞苑記念日 (記念日 5月25日)

広辞苑記念日

定価2000円。公務員の初任給が8700円だった1955年(昭和30年)5月24日、岩波書店の国語辞典『広辞苑』初版が発行されました。喫茶店のコーヒー1杯が50円だった時代に、その40倍もする値段でありながら、印刷が追いつかないほど売れ、大ベストセラーとなりました。

『広辞苑』のルーツは1935年(昭和10年)、博文館から発行された国語辞典『辞苑』(じえん)にさかのぼります。この辞書を改訂し、新たな国語辞典として世に出すべく、編著者の新村出(しんむら いずる)とその次男・新村猛(しんむら たけし)が改訂作業に着手しました。ところが1945年(昭和20年)の東京大空襲により、印刷所と倉庫が壊滅。数千ページ分の活字組版と大量の印刷用紙が焼失し、作業は振り出しに近い状態へと引き戻されました。

それでも関係者は作業を続け、被災から10年、最初の改訂着手から数えれば20年の歳月を経て、書名を『広辞苑』と改めた初版がようやく刊行されました。収録語数は約20万語。「広い言葉の苑(その)」という名のとおり、国語・百科の知識を一冊に凝縮した辞書は、日本語を学ぶすべての人の手元に置かれる存在となっていきました。

編著者の新村出は1876年生まれの言語学者・文献学者で、「ことばの博物館」とも称される膨大な知識の持ち主でした。次男の新村猛はフランス文学者・言語学者として父の仕事を支え、その後の版でも改訂作業の中心を担いました。

その後、『広辞苑』は時代とともに改訂を重ねてきました。2018年(平成30年)1月12日には第七版が発行され、収録語数は約25万語へと拡充。普通版の定価は税込9720円、机上版は15120円となっています。初版発行から60年以上が経過してもなお版を重ね続けるこの辞書は、日本語の「いま」を映す鏡として、その役割を果たし続けています。

5月24日は「広辞苑記念日」(「広辞苑の日」とも)として、初版発行の日に由来します。手軽に情報を検索できる時代にあっても、一冊の辞書に込められた編著者の労苦と、言葉への真摯な向き合い方を振り返る日として、記念日は静かに続いています。