キスの日 (記念日 5月23日)
1946年(昭和21年)5月23日、日本映画史に小さくも鮮烈な一場面が刻まれました。佐々木康監督の『はたちの青春』(松竹)が公開され、日本映画で初めてキスシーンが登場したとされる作品として記録されています。この出来事にちなみ、5月23日は「キスの日」と呼ばれるようになりました。このキスシーンが生まれた背景には、当時の占領政策があります。映画製作は連合国軍最高司令部(GHQ)の検閲下に置かれており、GHQの部局である民間情報教育局(CIE)のデヴィッド・コンデが完成した脚本を確認した際、当初提出されたものと内容が異なることを指摘しました。そのうえでコンデはキスシーンを挿入するよう要求し、製作側はこれを受け入れました。
実際のシーンは、主演の大坂志郎と幾野道子が唇をほんのわずかに合わせるだけのものでした。しかも撮影の際、2人はあいだにガーゼを挟んでいたといいます。観客の目には触れなかったその小道具が、映画史の転換点を静かに支えていました。それでも当時の観客にとっては十分に衝撃的で、映画は連日満員の大ヒットを記録しました。公の場でのキスが珍しかった時代の空気を、如実に物語るエピソードです。
ただし「日本初のキスシーン」については異説もあります。川島雄三監督の『ニコニコ大会 追ひつ追はれつ』が、『はたちの青春』より約4ヶ月早い1946年1月24日に公開されており、こちらが日本初とする見方も存在します。いずれの作品も戦後間もない時期に制作されており、占領期という特殊な状況が日本映画の表現を大きく動かした時代だったことがわかります。敗戦から1年も経たない日本で、スクリーンのわずかな接触が連日満員の話題を生んだという事実は、映画が社会の変化と深く結びついていたことを示しています。
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