ラブレターの日 (記念日 5月23日)

ラブレターの日

京都の須賀神社では、節分の日になると「懸想文売り」と呼ばれる人物が現れます。烏帽子をかぶり、白い布で顔を隠した姿で梅の枝に小さな文を結いつけ、参拝者に売り歩く――この風習は平安時代にさかのぼる恋文文化の名残です。5月23日は「ラブレターの日」。現代のラブレターを想起させるこの記念日には、日本人が長い年月をかけて育ててきた恋心の伝え方が凝縮されています。

日本における恋文の歴史は古く、平安時代には「懸想文(けそうぶみ)」と呼ばれていました。恋心を和歌に詠んで紙にしたため、草木を添えて人づてに届けるのが作法でした。文字を書けない人や、和歌の才に乏しい人々のために代筆を引き受けたのが、没落した下級貴族たちだったと言われています。字が達者でも、女性側が女房に代筆を頼むことも珍しくなく、恋文とは個人の感情表現であると同時に、教養と作法を示す社交の場でもありました。

江戸時代後期になると、『女用文忍草(おんなようぶんしのぶぐさ)』のような恋文の手引書が刊行されました。「初めて送る恋の文」「文のみにて未だ逢わざるに送る文」など、状況や相手の属性ごとに文例が細かく整理されており、現代で言えば恋愛マニュアル本に相当します。寛政8年(1796年)刊行の『遊女案文』や元禄11年(1698年)刊の『詞花懸露集』など、複数の手引書が出版されたことからも、この文化がいかに広く根づいていたかがわかります。須賀神社の懸想文売りが売る文は、恋文そのものではなく、鏡台や箪笥の引き出しに入れておくと良縁に恵まれ、顔かたちが美しくなるとされる縁起物です。かつて正月に京・大坂で見られた風習ですが、須賀神社では現在も節分に受け継がれており、毎年多くの参拝者が訪れます。恋文が縁起物として信仰の対象にまで昇華した点に、日本ならではの文化の重層性があります。

「ラブレターの日」は、松竹株式会社が浅田次郎原作の映画『ラブ・レター』のPRとして制定しました。映画の公開日である1998年5月23日と、「こ(5)い(2)ぶ(3)み」という語呂合わせが由来です。懸想文から手引書、そして映画の宣伝まで、人が誰かへの気持ちを言葉にしようとする衝動は時代を問わず変わりません。5月23日は、自分の言葉で気持ちを伝えることを少し意識してみる日かもしれません。