温度計の日 (記念日 5月14日)
体温計を口に含んだとき、37度前後を示す数字に見慣れている日本人にとって、98.6°Fという数字はピンとこないかもしれません。しかしアメリカでは今も体温・気温・料理の温度まで、あらゆる温度をこの華氏(ファーレンハイト)で測ります。この温度目盛りに名前を残したガブリエル・ファーレンハイトは、1686年5月14日(ユリウス暦)、現在のポーランド・グダニスクに生まれました。グレゴリオ暦では5月24日にあたることから、日本では5月14日と5月24日の両日が「温度計の日」とされています。
ファーレンハイトが華氏温度を定義したのは1724年のことです。基準点の選び方がユニークで、氷と食塩の混合物が示す温度を0度、健康な人間の体温を96度としました。この結果、水の融点は32度、沸点は212度となり、その差はちょうど180度。一見不規則に見えますが、体感温度を基準に設計されたためです。人間の体温が100度を超えると医療的な処置が必要とされるなど、数値が日常の感覚と直結しているのが華氏の特徴です。18〜19世紀を通じて、華氏温度はイギリスをはじめ多くの英語圏で気候・医療・産業の標準として広く使われました。転換点は1960年代から70年代にかけてです。各国がメートル法への統一を進める中、イギリスやカナダ、オーストラリアは政府主導で摂氏への切り替えを断行しました。しかしアメリカは今日に至るまで、日常生活では華氏を使い続けています。
なぜアメリカだけ華氏を手放せないのか。理由の一つは「使い勝手の良さ」です。アメリカ本土の気温変化はほぼ0°Fから100°Fの範囲に収まるため、気温がマイナス表示になることはほとんどありません。日常会話で「今日は75度」「昨日は20度まで冷えた」と言えば、それだけで快適か寒いかが直感的にわかります。摂氏のように0度が水の融点という物理的基準ではなく、人間の生活環境そのものを目盛りにした尺度だという点が、根強い支持につながっています。
一方、日本語で「華氏」と呼ぶのは中国語由来の言い方です。中国ではファーレンハイトに「華倫海特」の漢字を当てたため、頭の一字をとって「華氏」となりました。日本はこれをそのまま採用しています。温度計という一つの道具の名前の中に、17世紀ドイツの物理学者、英語圏の度量衡の歴史、そして東アジアの漢字文化圏という三つの歴史が折り重なっています。