口腔ケアの日 (記念日 5月9日)
口腔ケアを適切に行うだけで、肺炎の発症率が39%、死亡率が約53%にまで低下する——そんな研究結果が報告されています。歯を磨くという日常の行為が、命に直結する疾患の予防につながるという事実は、口腔と全身の健康が切り離せないことを如実に示しています。5月9日は「口腔ケアの日」です。「こう(5)くう(9)」という語呂合わせに由来し、愛知県名古屋市千種区に事務局を置く一般社団法人・日本口腔ケア学会が制定しました。2017年(平成29年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録されています。口腔ケアの重要性を医療・介護の専門職だけでなく、広く一般の人々にも知ってもらうことが制定の目的です。
口腔ケアとは、単に歯を清潔にするだけではありません。日本口腔ケア学会の定義によれば、「口腔の疾病予防、健康保持・増進、リハビリテーションによりQOLの向上を目指した科学であり技術」です。具体的には、口腔清掃、義歯の着脱と手入れ、咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんか)のリハビリ、歯肉や顎部のマッサージ、口腔乾燥の予防、口臭の除去など、多岐にわたる行為を含みます。
特に注目されているのが、誤嚥性肺炎との関係です。誤嚥性肺炎とは、食べ物や唾液が誤って気道に入り込み、口腔内の細菌が肺に達することで引き起こされる肺炎です。70歳以上の高齢者では、肺炎の約80%が誤嚥性肺炎とも報告されており、日本における高齢者の死因として大きな割合を占めています。口腔内を清潔に保つことで細菌の増殖を抑え、誤嚥性肺炎のリスクを大幅に下げられることが、医学的に示されています。
口腔ケアが影響を与えるのは肺炎だけではありません。口腔内の細菌は血流に乗って全身に広がる可能性があり、心内膜炎や脳血管疾患との関連も指摘されています。また、よく噛める口腔環境を維持することは、食事からの栄養摂取を支え、会話や表情筋の働きを通じてコミュニケーションの質にも直接関わります。病院・施設・在宅療養のいずれの場面においても、口腔ケアは生活の質(QOL)全体を底上げする基盤として位置づけられています。
こうした重要性が広く認識されているにもかかわらず、実際の現場では取り組みが難しいのが現状です。そのため、保健・医療・福祉の関係者が連携し、口腔ケアの実践・調査・研究・情報交換を組織的に進める体制づくりが求められています。「口腔ケアの日」は、そうした専門家による活動を社会全体へとつなぐ、一つの起点となっています。