名刺の日 (記念日 5月4日)
パルテノン神殿、ピラミッド、ミロのヴィーナス。人が古来「美しい」と感じてきた形には、1対1.618という比率が潜んでいます。黄金比と呼ばれるこの比率は、実は毎日使う名刺にも刻まれています。日本の標準的な名刺サイズ91×55mmは、長辺を1としたとき短辺が約0.604となり、黄金比にきわめて近い値です。パスポート、ハガキ、キャッシュカード、トランプにも同じ比率が見られ、人間の感覚に深く根ざした寸法が、ビジネスの場で毎日手渡されているわけです。名刺が日本に登場したのは江戸時代のことです。当初は和紙に墨で名前を書き、不在の相手先に「訪れた証」として置いてくる習慣が始まりでした。幕末に外国人との交流が盛んになると木版印刷の名刺が現れ、明治以降は活版印刷の普及とともに名刺文化が広く定着していきます。中国には訪問先に名前を告げるため木や竹の札を使う慣習が古くからあったとされ、日本へはこの文化が伝わって発展したと考えられています。
長辺91mmという寸法には、日本固有の度量衡が関わっています。日本では古くから長さの単位に尺・寸が用いられており、1寸は30.3mm。名刺の長辺はちょうど3寸(約90.9mm)に相当します。短辺の55mmは、前述の黄金比から導かれた値です。つまり名刺の寸法は、伝統的な尺貫法と黄金比という二つの体系が組み合わさって生まれた規格で、「4号」または関西では「大阪9号」とも呼ばれています。
5月4日は「名刺の日」です。「めい(May)し(4)」という語呂合わせから、日本名刺研究会がプライベート名刺の普及を目的として制定しました。名刺に記載される情報は、名前・所属・肩書き・住所・電話番号・メールアドレスが基本ですが、近年はSNSアカウントやQRコードを加えるスタイルも広がっています。初対面の場で差し出す小さな一枚に、尺貫法の伝統と数学的な美が凝縮されていると知ると、名刺交換の場面が少し違って見えてきます。