猪肉の日 (記念日 4月4日)

猪肉の日

「牡丹肉」「山鯨」——猪肉にはこれほど趣のある別称が残っています。牡丹肉は、鍋に並べた猪肉の脂身のさしが、大輪の牡丹の花びらに見えることに由来します。山鯨は、鯨が「魚」として扱われ獣肉食の制限を免れていた江戸時代に、「山の鯨」と称することで堂々と食卓に並べた庶民の機知から生まれた言葉です。

日本人が猪肉を食べてきた歴史は、縄文時代まで遡ります。貝塚や遺跡から発掘された動物の骨の多くはシカとイノシシのもので、この二種が当時の狩猟の主役でした。焼く・煮るといった調理法で内臓まで余さず食べ、過酷な自然のなかでタンパク質とミネラルを確保していました。つまり猪肉は、日本列島に暮らす人々にとって、米よりも古い食の記憶といえます。

江戸時代、仏教の影響を受けた獣肉食への忌避感が広がるなか、「薬喰い」という慣習が根づきました。

「薬として食べているのだから問題ない」という建前のもと、武士も庶民も冬になると猪鍋や鹿鍋を楽しみました。江戸近郊では「ももんじ屋」と呼ばれるジビエ専門の肉屋が営業し、山くじら・牡丹という隠語を使いながら猪肉を売り歩きました。禁じられているからこそ人々は工夫し、洒落た言葉で肉食をひそかな楽しみに昇華させました。その文化的な知恵が、現代まで語り継がれる別称として残っています。

栄養面でも猪肉は優秀です。豚肉と同じ豚科に属しますが、野生で広範囲を動き回るため脂肪分が少なく、赤身が多くなっています。ビタミンB群が豊富で疲労回復に効果的とされ、特にビタミンB1の含有量は牛肉を大きく上回ります。鉄分やタンパク質も豊富で、体内の代謝を活性化するとされてきました。

4月4日の「猪肉の日」は、長野県南部の秘境「遠山郷」でジビエを扱う有限会社「肉の鈴木屋」が制定しました。

「シ(4)シ(4)」という語呂合わせに日付の由来を持つこの記念日は、一般社団法人・日本記念日協会によって認定・登録されています。南アルプスと中央アルプスに挟まれた遠山郷は、古くから山の幸が豊かで、猪・鹿・熊といったジビエが地域の食文化を支えてきた土地です。牡丹肉と呼ばれ、山鯨と呼ばれ、縄文の昔から日本人の食を支えてきた猪肉の奥深い来歴を、4月4日に味わいながら思い起こしてみてください。