祈りの日 (記念日 3月27日)
「諸国の家ごとに佛舎を作り、即ち佛像と経とを置きて礼拝供養せよ」——天武天皇14年(685年)の旧暦3月27日、朝廷からこの詔が全国に発せられました。仏像を祀る場をすべての家に設けよという命令は、仏教がまだ寺院や宮廷の周辺にとどまっていた時代において、信仰を民の日常生活の内側へ引き入れようとする意志を示すものでした。
この詔は奈良時代の歴史書『日本書紀』に記録されており、日本における家庭的な仏事の起源を語る記述として今日に伝わっています。当時、地方の寺院整備はまだ途上にあり、畿内以外では仏教の実践が十分に根づいていませんでした。天武天皇がこの詔を下した背景には、仏教を国家統治の軸に据えつつ、同時にその恩恵を一般の民衆にまで届けようとする政策的な意図があったとされます。詔から半世紀ほど後、聖武天皇が国分寺建立の詔を発する頃には、この系譜に連なる仏教国家のかたちが完成へと向かっていきます。
「祈りの日」は、こうした歴史の記憶を根拠に制定された記念日です。制定したのは全日本宗教用具協同組合(全宗協)で、記念日は2017年(平成29年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録されました。全宗協は1988年(昭和63年)に設立された経済産業省認可の組合であり、仏壇・仏具・神具といった宗教用具業界における唯一の全国的な協同組合組織として、業界の発展と文化継承に取り組んでいます。
この記念日が掲げるのは、宗教用具という具体的な道具を入口として、「祈り」という行為を幅広い世代へ広めていくことです。祈りはもともと、宗教の枠を超えて人が人として持ち続けてきた営みです。毎朝仏壇の前で手を合わせる高齢者も、試験前に神社で絵馬を書く学生も、その根底には、自分ではどうにもならないものへ向かって気持ちを静かに向ける、という同じ姿勢があります。
日々の幸せや遠くにいる大切な人の無事を思うとき、人は自然と手を合わせます。その行為に理屈は要りません。3月27日は、あらためてその静かな時間を意識するための日として、現代の暮らしの中に置かれています。
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