さくらの日 (記念日 3月27日)
「3かける9は27」——こんなシンプルな掛け算から記念日の日付が決まることは珍しい。3月27日のさくらの日は、「サ(3)×ク(9)ラ=27」という語呂合わせと、七十二候の「桜始開(さくらはじめてひらく)」が重なる時期であることを根拠に、公益財団法人「日本さくらの会」が1992年(平成4年)に制定した。日付の選び方に、制定者たちの桜への愛着が滲む。
日本人が桜を特別視するようになったのは、意外と歴史が新しい。奈良時代の『万葉集』では梅を詠んだ歌が約110首であるのに対し、桜を詠んだ歌は約44首にとどまる。当時の貴族が憧れていたのは、中国文化の象徴でもある梅だった。潮目が変わったのは平安時代。『古今和歌集』(905年)では桜が花の主役に躍り出て、以来「花といえば桜」という日本独自の感性が根づいていった。
現在、日本に存在する桜の品種は800種以上とも言われる。そのなかで街路樹や公園に圧倒的な割合で植えられているソメイヨシノには、驚くべき事実がある。全国に広がるソメイヨシノはすべて遺伝子が同一のクローンだ。江戸時代末期に染井村(現・東京都豊島区)の植木職人たちが、エドヒガンとオオシマザクラを掛け合わせて作り出したこの品種は、種子で増えることができず、接ぎ木でのみ繁殖する。そのため全国どこのソメイヨシノも、元をたどれば同じ一本の木の「分身」ということになる。各地で桜の開花時期が揃いやすいのも、この遺伝的均一性と関係している。
日本さくらの会は1964年(昭和39年)の設立以来、宝くじの社会貢献広報事業の助成を受け、全国の公園・河川・道路・学校・公共施設などに約300万本のさくらを植樹してきた。「さくら名所100選」の選定や、名木・巨木の保存活動、希少品種の育成も続けている。身近な桜並木の多くが、こうした地道な活動に支えられている。
花見の起源は奈良時代の宮中行事にまで遡るとされるが、農村では桜の開花が田植えの時期を告げる「農作業の合図」でもあった。山の神が桜に宿り、その年の豊作を占うという信仰も各地に残る。観光や娯楽としての花見が広まったのは江戸時代以降だが、桜を囲んで人が集う習慣の底には、長い歴史に育まれた感覚が今も息づいている。