面発光レーザーの日 (記念日 3月22日)
スマートフォンの顔認証、コンピューターマウス、自動運転のLiDAR——これらを支える面発光レーザー(VCSEL)は、1977年に東京工業大学の研究ノートに書き留められた一つのアイデアから始まりました。
従来の半導体レーザーは基板の端面からレーザー光を放射する「端面発光型」でした。これに対して伊賀健一氏が発案したVCSELは、基板に対して垂直の方向、つまり上面からビームを出射します。レーザー素子の共振器の長さはわずか数マイクロメートル以下。その極めて小さなサイズにもかかわらず、基板上に2次元アレイ状に大量に並べることができ、量産性と集積性に優れているのが最大の特徴です。
発案から2年後の1979年、伊賀氏は東京工業大学で世界初のVCSELの動作実証に成功します。1982年には共振器長10マイクロメートルのVCSELを試作してレーザー発振を確認。1988年にはGaAs基板上で波長894nmの室温連続発振を達成し、実用化への道を大きく切り開きました。当初は「上から光を出すなど非常識だ」と否定的な見方もあったと伝えられていますが、伊賀氏はその発想を手放さず研究を積み重ねました。VCSELに関する学術論文は世界で6万本を超えるまでに拡大し、光通信・センサー分野の標準技術として定着しています。端面発光型と比べてウエハ上での一括検査が可能なため歩留まりが高く、コスト面でも製造業に受け入れられやすかったことが、これほど急速に普及した理由の一つです。
現在、VCSELはiPhoneのFace IDに搭載された赤外線センサーや、LANケーブルに代わる高速光通信網、レーザープリンターなど、日常生活の深部にまで浸透しています。伊賀氏自身は2021年にIEEEエジソンメダルを受賞(日本人3人目)、2025年には第46回本田賞(賞金1000万円)を受賞するなど、国際的な評価が続いています。
3月22日の「面発光レーザーの日」は、公益社団法人・応用物理学会微小光学研究会が制定し、2021年(令和3年)に日本記念日協会が認定・登録しました。日付は伊賀氏が研究ノートにVCSELの概念を記した1977年3月22日に由来します。日本発の光技術の貢献度を国内外にアピールし、さらなる研究・応用開発を促すことが目的です。