日本手ぬぐいの日 (記念日 3月21日)
折り重なった生地に上から染料をどっと流し込む——注染(ちゅうせん)という技法を初めて聞いた人は、首をかしげるかもしれません。ところがこれが見事に染まる。しかも表裏ほぼ同じように。
注染は明治時代に大阪で生まれた染色技法です。防染のための糊を使って型を置き、生地を20〜30枚重ねた状態で上から染料を注ぎ入れます。余分な染料は下から吸い引いて抜き、最後に蒸して色を定着させます。この一連の工程をすべて職人が手作業で行います。機械では再現しにくい、手仕事ならではのにじみやぼかしが生まれるのもこの技法の特徴で、同じ柄でも一枚一枚わずかに表情が違います。
手ぬぐいそのものの歴史はさらに古く、奈良時代には神事に使われていた記録があります。江戸時代になると庶民にも広く普及し、汗を拭く・頭に巻く・包む・拭き掃除をするなど、日常のあらゆる場面で活躍しました。当時は一家にひとつではなく、複数枚をさまざまな用途に使い分けるのが当たり前だったといいます。
現代の手ぬぐいは使い方の幅がさらに広がっています。タオルやハンカチとしての実用はもちろん、壁にそのまま飾るテキスタイルアートとして、またランチョンマットやブックカバーに仕立てるなど、インテリア雑貨としての需要も高まっています。端を縫わない「切りっぱなし」の仕様も手ぬぐいならではのもので、乾きが早く衛生的という実用的な理由からきています。
「日本手ぬぐいの日」は、大阪府堺市で注染手ぬぐいの製造・販売を行う株式会社ナカニが2016年(平成28年)に制定しました。日付は春分の日(3月21日頃)。春を迎えて手ぬぐいの需要が高まる時期であることに加え、地場産業としての注染文化を広く発信し、その技術を次世代へ継承していくという思いが込められています。堺市は注染の産地として知られており、今もこの地で伝統の技を受け継ぐ職人たちが働いています。
化学繊維やファストファッションが普及した時代に一度は需要が落ち込んだ注染手ぬぐいですが、近年は伝統工芸への関心の高まりとともに再び注目されています。使うほどに風合いが増し、何年も使い続けられる。そういう道具が改めて評価される時代になってきたのかもしれません。