催眠術の日 (記念日 3月21日)

催眠術の日

3、2、1——。その掛け声とともに意識が変容する、というイメージが催眠術にはあります。3月21日が「催眠術の日」とされているのは、まさにこの「3・2・1」という数字の並びからです。一方、12月3日は逆順の「1・2・3」をもとに、日本奇術協会が「奇術の日」と制定しています。どちらも掛け声の数字が記念日の由来になっているという、少し洒落た対比が面白いところです。

催眠術の科学的な起源は18世紀のヨーロッパにさかのぼります。オーストリアの医師フランツ・アントン・メスメルは、人体には「動物磁気」と呼ばれる力が流れており、それを操ることで病気を治せると主張しました。手をかざすだけで患者が痙攣し、回復したように見えるそのやり方は一世を風靡しましたが、後にフランス王立科学アカデミーの調査委員会(ラヴォアジエやフランクリンも参加)によって「磁気の存在を示す証拠なし」と否定されます。それでも「メスメリズム」という言葉は現代にも残り、催眠研究の出発点となりました。

19世紀、イギリスの外科医ブレイドが凝視法で催眠状態を再現し、ギリシャ語の「眠り」から「ヒプノシス」という言葉を作りました。動物磁気を切り捨て、催眠を心理現象として定義したことが現代科学の礎です。

日本では明治末期から大正時代にかけて催眠術ブームが起きました。「催眠」と明記された書籍だけでもこの時期に400冊以上が出版されたとされており、医師から霊術師まで多様な立場の人々が催眠を応用した療法や鍛錬法を広めました。1908年(明治41年)に発布された警察犯処罰令には「みだりに催眠術を施した者」という一項が設けられるほど、社会的な関心と懸念が高まっていたことがわかります。

現在、催眠は大きく「催眠療法(ヒプノセラピー)」と「舞台催眠(ショー催眠)」に分けられます。前者はPTSD・不安障害・慢性疼痛などへの補助的アプローチとして、特にアメリカでは医療現場での活用が進んでいます。催眠状態は神秘的なものではなく、電車でうとうとしているような「変性意識状態」の一種であり、暗示を受け入れやすくなった通常の意識の延長です。誰もが日常的にそれに近い状態を経験しているという点は、案外知られていません。