試薬の日 (記念日 3月9日)

試薬の日

「酸素」「水素」「窒素」——これらの言葉を誰が作ったか、ご存知でしょうか。江戸時代の蘭学者・宇田川榕菴(1798〜1846年)です。津山藩(現・岡山県津山市)の藩医だった彼は、幕末の日本に近代化学を伝えた人物であり、3月9日の「試薬の日」は、その生誕日にちなんでいます。

日付の3月9日は宇田川が生まれた寛政10年(1798年)3月9日に由来します。一般社団法人・日本試薬協会が発足15周年を記念して2015年(平成27年)に制定し、翌2016年に日本記念日協会が認定・登録しました。試薬が化学・生物・材料・臨床検査・環境分析など幅広い科学分野を支えていることを広く知らせることが目的です。

「試薬」という言葉が初めて使われたのは、宇田川が1832年(天保3年)に著した『舎密試薬編(せいみしやくへん)』です。この書には約50種の試薬の製造方法が記されています。「舎密(せいみ)」とは化学を意味するオランダ語「Chemie」の音訳で、続く大著『舎密開宗』では欧州の化学書を翻訳し、日本で初めて体系的な近代化学を紹介しました。酸素・水素・窒素・炭素・白金といった元素名はもちろん、酸化・還元・溶解・分析といった化学用語のほとんどが宇田川の造語とされています。

意外なところでは「珈琲」という漢字表記も宇田川の発案です。蘭和対訳辞典で「Coffee」に「珈琲」の字をあてたのが最初だとされています。シーボルトとも親交が深く、西洋の知識を日本語に置き換えながら精力的に翻訳・著述を続けた人物の多彩さがうかがえます。

また、3月9日は「さ(3)く(9)さん」の語呂合わせから「酢酸の日」でもあります。「酢酸」という言葉も、宇田川が『舎密開宗』の中で最初に用いたもので、一つの日付に彼の業績が二重に刻まれています。日本試薬協会は東部試薬協会と西部試薬協会が2000年(平成12年)に対等合併して発足した全国組織で、それぞれ50余年の歴史を持つ団体の統合によって生まれました。