太物の日 (記念日 2月10日)
江戸時代の呉服屋の看板には、「絹物 太物商」という表記が並んでいました。絹を扱う「絹物」に対して、綿・麻・ウールなど太い糸で織られた布地の着物を「太物(ふともの)」と呼びます。絹よりも丈夫で手入れしやすく、庶民の日常着として江戸の町に広く根付いていた太物は、着物文化の中でも「普段着」を支えてきた存在です。
木綿が日本に本格的に普及したのは戦国時代以降のことです。それ以前、庶民の普段着はもっぱら麻でした。木綿は吸湿性が高く丈夫で染色も容易なため、江戸時代に入ると浴衣や綿入れ、足袋といった形で急速に広まりました。一方、ウールが着物素材として登場するのはさらに後のこと。明治維新後に洋式軍服が普及してから毛織物の技術が国内に根付き、昭和になって太物の範疇に加わっています。綿・麻・ウールというまったく異なる素材が「太物」という一言でくくられているのは、絹に比べて糸が太いという共通点からで、その成り立ちには長い時代の重なりがあります。
2月10日は「太物の日」です。宮崎県宮崎市の着物店「株式会社こだま」が提唱し、全国の太物ファンとともに制定しました。「ふ(2)と(10)もの」という語呂合わせで日付が選ばれており、一般社団法人・日本記念日協会に認定・登録されています。この日は太物を着て一日を過ごすことを提案しています。
太物が「普段着」である点は、着物文化の継承を考えるうえで意外と重要です。礼装としての絹の着物はハードルが高く、現代では特別な場面にしか登場しません。一方、太物は洗濯しやすく動きやすいため、日常的に着ることへの敷居が低い。着物を着ることを特別な行事から日常へ引き戻す入り口として、太物は今あらためて注目されています。なお、関連する記念日として5月29日に「絹物の日」、11月15日に「着物の日」があり、着物文化全体を一年間にわたって意識する仕掛けが整えられています。